外なる虚空の闇に住まいし者よ
今ひとたび大地に顕れることを、我は汝に願い奉る
時空の彼方にとどまりし者よ、我が嘆願を聞き入れたまえ
~井ノ上久須美のメモ
太境市で魔法災厄が露見する、その少し前――。
魔法使い、井ノ上(あがない)久須美は自分の店にいた。
彼女の店は同時に魔術工房であり、
「どこにもあって、どこにもない」浮舟の宮殿となって、
次元の狭間をたゆたっている。
井ノ上の意志によって招かれた、
魔法を知らない「愚者」がここを訪れることもあるが、
自らが超常の空間にいるなどと、彼らは思いもしない。
今日の客、駒贄治信(こまにえ はるのぶ)も、
そんな愚者の一人である。
井ノ上 「お久しぶりね、コマニエ・ハルノブ」
GM 駒贄「お久しぶりです、井ノ上さん。早速ですが、ご注文の品、手に入れることができましたので、お改めください」
GM 駒贄が差し出した上等な木箱の中には、古い万年筆が入っている。彼自身は魔法を知らず、知覚できない「愚者」だが、彼の家が扱うアンティーク類は、魔法のアーティファクトの素材になり得るほどのものなのだ。
井ノ上 「軸はナニナニ、ペン先は名工某(なにがし)のダレソレ・・・」と由来を看破しながら、しげしげ眺めておくわ。
GM 駒贄は感心しながら君の言葉を肯定しつつ、補足の説明をしてくれる。彼の商品知識は一流だ。
井ノ上 「・・・やはり、こういった文房具の扱いは、駒贄家が一番ね。先代も先々代も、大したものだったわ」
GM 駒贄「ありがとうございます」
GM 見た目は若い井ノ上の、不思議な言にしかし、駒贄は疑問を抱かない! 工房には不認識の術式が施されており、不都合な認識は、すぐに書き換えが施されるのだ!!
魔法はろくでもないものです。
井ノ上 商談後のお茶にしましょう。
GM では、駒贄はお茶を頂きながら、少し歯切れ悪く話を切り出す。
GM 駒贄「ところで井ノ上さん、私事でお恥ずかしいのですが・・・」
井ノ上 「なにかしら?」
GM 駒贄「・・・実は僕、来年の春に、結婚することになりまして」
井ノ上 「あらあらまあまあ、それは素晴らしいことね。ぜひとも、あなたの子どもにも、この店にいらして頂きたいわ。産着や玩具、いろいろ用立てて差し上げるわよ?」
GM 駒贄「い、いやいや、子どもなんて、まだ早いですよ・・・!!」
井ノ上 「あなたのお爺様もお父様も、子どもが生まれた時には、とても嬉しそうにしていたわ」
GM 駒贄「ははは・・・そ、それで、ですね。結婚の話をまとめるために、一ヶ月程度、日本の太境(たざかい)市に滞在することになりますので、ご承知おき頂ければと」
井ノ上 「あら、太境市。あそこにも私の店があるのよ」
GM 駒贄「え、そうだったのですか。ではまた、ご挨拶に伺いますよ」
井ノ上 「よろしくお願いするわ。私によく似た人がいるかもしれないけれど、気になさらないでね」
あらゆる空間に接続できる井ノ上の店に、
「位置」という概念は意味をなさない。
井ノ上 「ところで察するに、お相手の方は太境市にいらっしゃるのね。どんなお方か、聞いてもよろしいかしら」
GM 駒贄「は、はい、太境楼良(たざかい さくら)さんと言いまして・・・」
照れながら話す駒贄の婚約者は、太境楼良。
名家、太境家の令嬢であり、家同士の幼い頃からの交流が、
男女の交際に変わったのが1年前。
そして次の春に、それが実を結ぶ。
井ノ上 「それはよかったわね。どうかお幸せに」
GM 駒贄「はい、ありがとうございます!」
幸福そうな駒贄治信を見送った数日後、彼は行方不明となる。
そして、井ノ上久須美に<大法典>からの指令が届く。
その内容は、太境市で起きている魔法災厄の解決に協力すること。
さらにこれは、偶然か必然か。
その魔法災厄の被害者第1号に、駒贄の婚約者、
太境楼良の名前が認められるのであった。
続く